味のおもしろ発見

 
幻の味、ルッツ


  地元の人は知っている、そして黙って食べている。よそから来た人には「こんなもの」と謙遜したり、「都会の人は食べないしょ」と決め付けてなかなか教えてくれない味がある。旬とも違う、季節や気候のはざまで、その土地に住むものだけに自然が無造作にくれる贈り物、そんなものにも目を向けたい。  
ルッツ(ユムシ)


 
ルッツ
 冬に石狩の浜益あたりでとれるという珍味、「ルッツ」を知人が手に入れた。
  解凍されたその刺身は少しくすんだオレンジ色や赤紫で、ホヤのようにも、生のモツのようにも見える。が、はっきりいってグロテスク。短冊に切られたその不気味な一切れを恐る恐る口に含み、そっと噛みしめてみる。シコシコとコリコリの両方を併せ持った歯ごたえ。やがて、ほのかな甘みの中から、海の香りがゆっくりと立ち上がってきた。ちょっと他にはない食感、鮮烈な個性はないもののクセがなく素直な風味。見た目と違って、珍味というより美味という印象だ。きっと酒にも合うに違いない。それにしても、その正体はいったい…。

  調べてみると、一般的な呼び名は「ユムシ」。環形動物門・ユムシ網。海産で、細長い円筒形または卵型、体前端に吻をもち、その吻の基部に口が開く。ユムシ類は日本では約20種ほどが知られているが、北海道沿岸に見られるのはユムシ・キタユムシなど。数メートルから数十メートルの海底の砂泥に穴をつくってすんでいる。本州ではタイなどの釣り餌として知られ、また韓国では生食用としても流通しているようだ。

  札幌から2時間弱。浜益の漁師、門脇習也さんにルッツの話を聞いた。
  「ルッツは、6メートル以上の大しけで、海底の砂泥がえぐられるような時でなきゃ上がらねえ」。ルッツが海岸に打ち上げられた日は、待ちわびた地元の人で、ひときわ浜は賑わうという。そしてルッツは村の外に出ることはほとんどなく、浜の家庭の味として楽しまれるのだ。新鮮なルッツは、ピンクとオレンジが混ざったようなきれいな色だという。形は、まるで子どものオチンチン。一緒に漁に出る息子の弥さんは「やっぱり刺身が最高。三升漬けにして年中食べているし、ジンギスカンに入れてもうまい。なんぼ食っても飽きないよ」。

 

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